電話1本ごとに止まる仕事、なぜ税理士事務所は放置してきたか

税理士事務所や士業の現場において、集中力を最も削ぐ要因の一つが「予告なしにかかってくる代表電話」だ。決算書類の作成や複雑な税務計算を行っている最中に電話が鳴ると、思考は中断される。応答してみれば売り込みの営業電話だったというケースも少なくない。

宮城県仙台市で経営相談や税務支援を手がける「ひなた税理士法人」でも、代表電話の取次や応対にかかる時間が1日あたり約30分に達しており、業務の中断が慢性的な課題となっていた。特に集中を要する専門職にとって、1回の着信による集中の途切れは数字以上のタイムロスを生む。

この問題が長年放置されてきた理由は明確だ。「電話対応は誰かがやらなければならない」「かといって電話番のためだけに専用の事務員を新しく雇う余力も予算もない」という、中小企業特有の現実があるからだ。人を増やせない環境下で電話対応をどう裁くか、多くの現場が解決策を持てずにいた。

約30分 → 5〜10分 1日の電話対応時間 不要な業務中断を大幅に削減
0件維持 AI受電の対応漏れ 朝礼当番の監視ルールで実現

ミライAIの一次受電と、朝礼当番に兼ねさせた監視役

同事務所が導入したのが、AI電話自動応答サービス「ミライAI」だ。電話がかかってくるとまずAIが一次受電を行い、用件を聞き取ってテキスト化する。その内容が即座に社内のチャットツールへ自動共有される仕組みだ。

導入によって営業電話はAIの段階で遮断され、急ぎでない用件もチャット上で一覧できるようになった。結果として、1日あたり約30分かかっていた通話・取次時間は5〜10分へと縮小した。しかし、AI応答を導入した中小企業が次にぶつかる壁が「チャット通知の見落としによる対応漏れ」だ。

通知がチャットに届いても、全員が現場作業に追われていれば「誰かが対応するだろう」というお見合いが起きる。専任の監視役を置けば人件費がかさみ、特定の担当者1人に頼ればその人が不在の日に運用が破綻する。そこで同事務所が作ったのが、「朝礼の司会者がその日のAIチェック担当を兼ねる」という運用ルールだった。

朝礼の司会者が日替わりでAI応答の未対応案件をチェックする運用ルールを敷くことで、業務中断を防ぎつつ対応漏れゼロを実現した。
日向雅之(ひなた税理士法人 代表)/株式会社ソフツー 導入事例発表より

この運用が効かない条件と、落とし穴

この運用の優れた点は、「人の仕事を奪わず、AIがつくった下ごしらえを既存の日課で監視する」という構造にある。毎日持ち回りで交代する朝礼の司会者に「チャット上で1時間以上未対応になっている着信を追跡する」という役割を1つ足しただけで、新たな人件費を1円もかけずに対応漏れゼロを達成した。

ただし、この事例がそのまま効かない条件もある。第一に、顧客からの電話の大半が「今すぐ対応しなければ損害が出る」といった緊急対応前提の業種では、AIの一次受電挟み込み自体が体験を損ねる可能性がある。第二に、社内で朝礼や日直といった「持ち回りの日課」が存在しない組織では、チェック担当のバトンタッチを別の仕組みで定義し直す必要がある。

また導入時の落とし穴として、AIによる音声認識の表記揺れや誤変換を過信しすぎることが挙げられる。顧客の用件確認や折り返し連絡などの最終判断は必ず人間が責任を持つという役割分担を崩さないことが、事故を防ぐ絶対条件だ。

あなたの事務所で来週試す小さな一歩

ツールを入れるだけで業務が変わると期待すると失敗する。成功の分岐点は「誰がそのツールを毎日見るのか」という泥臭い運用設計を、いかに低コストで組織に組み込めるかだ。

来週から試すための手順は4つに分解できる。1) 代表電話の取次に使っている時間を数日間計測し、課題を可視化する。2) 低予算で試せるAI受電ツールを1〜2週間の無料期間で設置する。3) 既存の朝礼当番や日番のチェックリストに「1分間の未対応着信確認」を追加する。4) 2週間運用して効果を検証する。

撤退の判断基準も決めておこう。2週間試して現場の二度手間が増えたり、確認漏れが減らなかったりした場合は、AI電話の導入範囲を特定の時間帯や営業電話専用番号だけに限定するか、一旦運用を止めて受付項目を見直せばよい。リスクを最小限に抑え、可逆な形で試すことが中小企業における現実的な一歩となる。

出典 / SOURCES

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