大掛かりなIT投資や専任のシステム部門がない組織において、業務の効率化と属人化の解消は長年の課題でした。特に専門性の高いBtoBの現場では、業務が特定のベテラン社員の判断に依存しがちです。青山財産ネットワークスが発表した取り組みは、現場の非エンジニア社員が主体となってAIエージェントを構築し、業務の標準化と顧客価値の向上を同時に達成した先進的な事例として注目を集めています。

なぜベテランの勘は今まで標準化できなかったのか

不動産や相続、事業承継といった専門知識が問われる現場では、長年の経験に頼る「ベテランの判断基準」が業務の最大のネックになりがちです。従来の業務マニュアル作成やシステム開発では、経験豊富な担当者が頭の中で無意識に行っている「判断の条件分岐」を文字に起こすことができず、多額の費用をかけて外部にシステム構築を委託しても、現場の運用に馴染まず放置される失敗が繰り返されてきました。人を簡単に増やせず、社内に専門人材もいない企業では、ベテランの頭の中にあるノウハウを取り出す手段がなく、特定の担当者に残業と問い合わせが集中する痛みを長年放置せざるを得なかったのが実情です。

担当者の個人経験に依存していた暗黙知を組織の共通資産に変え、創出された時間を顧客との対話や提案検討へ振り向ける
Masazumi Hasumi(蓮見正純)代表取締役社長|公式発表

現場14人が作った7件、その『刻み方』が勘所

この長年の課題を打ち破ったのが、青山財産ネットワークスの現場社員14名(7チーム)による自作アプローチです。外部の専門ベンダーに丸投げするのではなく、自部門の課題を最もよく知る現場のメンバーが自らAIエージェントを7件開発しました。この事例から中小企業が汲み取るべき最大の勘所は、開発スキルの高さではなく「1業務=1エージェント」という小さな切り分けにあります。全業務をまとめて自動化しようとせず、相続判断の初動チェックや不動産の査定時の確認事項など、単一の判断動作に絞って設定を施したことで、ベテランの思考プロセスを精度高く再現することに成功しました。

426時間の正体と、数字の割り引き方

同社は開発した7件のうち、効果試算が完了した3件の運用だけで年間約426時間の削減を見込んでいます。これを分解すると、1エージェントあたり年間約142時間、週に換算すると約3時間程度の猶予が1つの部署に戻ってくる計算になります。ここで重要なのは、ベンダーが強調しがちな「全社で数万時間削減」といった大げさな数字に惑わされないことです。本当に評価すべきは数字の絶対量ではなく、浮いた時間を人件費の削減に使うのではなく「顧客対話への再投資」に100%振り向けた経営判断にあります。事務作業から解放された担当者が顧客の深い相談に時間を割けるようになったことこそが、経営に直結する成果です。

14名 現場の参加社員数 7チームで自部門の課題を解決
7件 開発されたエージェント 1業務1テーマの最小単位
426時間 年間創出時間(3件分) 全額を顧客対応に再投資

中小がマネる手順:1業務1エージェントで小さく始める

従業員5人から50人規模の中小企業がこのモデルを自社に移植する場合、高度なプログラム構築や高額な予算は必要ありません。まずは社内で「最もベテランへ質問が集中している定型判断」を1つだけ選定します。例えば問い合わせに対する初回回答や、過去事例の検索など、ミスが起きても最終確認でカバーできる社内業務から始めるのが安全です。無料版や月額数千円のChatGPT、Claudeといったツールを使い、ベテランの判断理由(「どの数字を見てどう判断するか」)を3〜5行の箇条書きにして指示文を作成します。1週間試して作業時間の削減が半分にも届かない場合は、その工程がまだAIに向いていないと判断し、深追いせずに別の業務へ切り替える「撤退ルール」を決めておくことが失敗を防ぐ鉄則です。

出典 / SOURCES

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